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研究者とトークしよう! 第1回 地球物理学者と対談【後編】

 研究者と手作り科学館 ExedraのスタッフがSNSのライブ配信機能を用いて対談する「研究者とトークしよう!」。お家から気軽に、研究の世界や研究者の人となりに触れてほしいと思い、新たにスタートした企画です。対談の内容を、アーカイブ動画とは別に、ここでは文章でお届けしていきます。

 第1回のゲストは、マントルを研究する地球物理学者の奥田善之さん。当日の魅力あふれるお話を、前・後編に分けてたっぷりとご紹介します!前編では、マントル研究の魅力や実験の裏側についてお話いただいた内容をお届けしました。後編では、研究以外のご活動や、マントルの研究や理学分野に対する思いにもフォーカスしていきます。 配信アーカイブのご視聴はこちら

奥田 善之さん
博士(理学)。地球物理学の分野でマントルを研究。2021年3月に東京工業大理学院地球惑星科学コース博士後期課程を修了、4月より東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻 特別研究員。趣味はアウトリーチ活動、お寺巡り。Webページはこちら


人類の前進につながる研究を

―「奥田さんの研究は何学部でしているんですか?」という質問もきています。

 理学部の地球惑星科学科です。理系の学部を超ざっくり分けると、理学部と工学部があります。誤解を恐れずに言えば、工学部は人の生活を豊かに便利にする、人のためになるような研究をしています。理学はもうちょっと根源的で、人類を一歩先に進めるような、自然科学の研究が行われていることが多いです。理学部の学科のひとつである地球惑星科学は、途上国の貧しい子どもたちを豊かにできるような学問ではないですが、一方で、広い宇宙の数ある銀河の中で、銀河系の中にある太陽系の地球という小さな天体に住む我々人類を大きく一歩動かすような可能性があります

―いまの説明、めちゃくちゃカッコイイですね。理学や地球惑星科学の分野にいると、「その研究は何の役にたつの?」とよく聞かれますよね(笑)

 聞かれますよね、理学の人だと必ず聞かれるんじゃないですかね(笑)。学術的な価値と人間の生活を豊かにするものって必ずしも一致しませんからね。宗教に似ていると思うんですが、理学分野の研究が重要かどうかって人の価値観なんですよね。何を大事に思うかは人の価値観によると思うので、無理やり頑張って説得しようとするのは難しいですよね。

 例えば宇宙を開拓したり、マントルを調べたりして何になるんだと言われた時に、私は「そうですよね(笑)」と相手のご意見や考えを一旦受け止めます。そして、その人をどうやってマントルファンにするかを考えて、「一旦、僕の話を聞いてみたらどうですか?」という姿勢で接します。話を聞いていただいてもつまらなかったら、僕の実力不足かなと思います。

 ノーベル賞受賞者の方々も、毎回メディアの方から同じような質問をされるんですよね。宇宙ニュートリノの小柴先生が「何の役にも立ちません」と返答されていたのを見て、僕は間違っていなかったんだと勇気づけられました(笑)。人類の前進のためにやっていればいいかなと思っています。それを評価してくれる人は必ずいるので、役に立つか否かであまり一喜一憂せずに、僕は僕で好きなマントルを探求しようかなと思っています。この対談を見てくれている人たちはきっと理学が好きな方々なので、そういった人たちにお話しできるのは幸せですね。

―純粋に知らないことを探究したり、科学の世界観を広げたりする気持ちは、大事にもっていたいなと感じます。

 そうですね。世界でだれもやっていないことを調べるだけでも、研究するうえで十分なやりがいだと思います。少しくさいですが、先人の研究者たちがこれまで科学を牽引し、英知を積み重ねてきたその上に僕らが立っています。先人たちの研究を引用して研究を進め、未来には若い研究者が自分の研究を引用して仕事を進めていくことになるという、大きな科学の発展の歴史に自分が貢献するというのも心地よいものです。「巨人の肩の上に立つ」というやつですね。


目指せ、マントルファン1万人!

―「奥田さんの話を聞いてマントルを好きになりました」というコメントも視聴者の方からきていますね!

 嬉しいですね!マントルを知らなかった人を、まずは1万人マントルファンにするというのが僕のとりあえずの目標なので。コメントくれた方は大事な1/10000ですね。

  義務教育や高校の授業の中で地学を学ぶ機会があまりないので、そもそも、マントルが固体であることすら意外と知られていないんですよね。僕も大学に入るまで知らなかったですし。火山からマグマが流れるイメージ図などを見て「深いところから上がってくるドロドロのものなんだ!」と誤った先入観を持ってしまうのではないでしょうか。「マントルは固体なんだよ」とという事実を広めて、日本人の勘違いを覆していこうという思いから僕のWebページには”Mantle is solid.”と記載しています。

―マントルのことについてまだまだ知られていないからこそ、研究の話を伝える活動も積極的にされているんですよね。

 はい、人前で話すのも好きなので、趣味でアウトリーチ活動(一般の方に向けて研究成果を広く伝える活動)をやっています。初めてアウトリーチしたのが川崎での体験型のブース出展です。お茶や日本酒などいろいろな液体に圧力をかけて凍らせるというものだったのですが、当日は途中から生憎の大雨でした。傘をさしてでも来てくれたお客さんと一緒に雨粒を押したのもいい思い出です。

―以前、当科学館で開催した講座「研究者に会いに行こう!」にもご登壇いただき大好評でした!

 嬉しいお言葉です!僕は講座・講義もその実はエンターテインメントだと思っています。物理学や数学を交えた真面目な地球の講義を望んでいる人は大学の授業でない限り少ないのかなと思っているので、僕の話を聞いて、「勉強になったな」というよりも「楽しかったな」という感想が出る講座を作りたいと思っています。

―ご自身はどのようなところにアウトリーチ活動の意義や楽しさを感じますか?

 研究では、まずは仮説があってそれを明らかにするためにデータを集めてきます。僕の場合は、どうやって実験をしたら仮説が明らかになるかを考えて、実験をします。集めたデータを解析して、自分が主張したいことをまとめ、研究者がたくさん集まる学会の場で発表したり、学術論文として世に出したりします。このように発表される研究成果を、みんな批判的に吟味するんですよね。これは良し悪しではなく、学術発表とはそういうものなんですが。科学の研究過程では、発表された研究の論理に穴がないか、そのデータは本当に信頼できるのかなどを批判的に見るという姿勢はとても大事なことです。「もしかしたら間違ってるんじゃね?」と常に疑う姿勢をもつことで、「この人が言っているからきっと正しい」「この人が言うことは嘘だ」という先入観なしに判断することができるからです。

 ただ、気が滅入るんですよ(笑)。自分が「どうだ!」と発表したことに対して、いろんなことを言われるので緊張するし、へこみますよね。それに対して、アウトリーチという形でマントルのことをあまり知らない方々にお話すると、やはり皆さんキラキラした顔で聞いてくれて、地球科学に対する純粋な興味を質問として投げかけてくれるので、とても新鮮なんですよね。だから、すごく楽しいです(笑)。

アウトリーチ活動に取り組む奥田さん

―アウトリーチ活動を積極的に行うようになったきっかけや、続けている理由を教えていただきたいです。

 きっかけは、マントルの研究をしていても、短期的にははっきり言ってお金を生むわけでもなく、生活が便利になるわけでもないと感じたことです。

 AIやワクチン、ドローンなど、私たちの日常生活に有益な研究分野がたくさんあります。その中で、「我々はどこからきたのか、地球の他に生命はいるのか?」など、あまりに大きすぎる問いを探究する研究の成果は、知的好奇心を満たし特定の需要はあるものの、これからもお金が付くのか正直疑問です。

 理学は、安全に暮らせてお金がある国でしか研究できないと僕は思っています。何かしら付加価値を生まなければ、この先日本に国際競争力が落ちお金がなくなってきたときに「日本が税金でやる必要はない。アメリカや中国など、お金がある国がやればいいんじゃない?」という世論が高まってしまうのではと危惧してしています。 日本において、自分の研究や理学の価値をいかに高めるかを考えたときに、マントルに興味が少しもなかった人に興味を持ってもらうことやマントルファンをいっぱい増やすこと、物理や化学,数学アレルギーの人にも「理学って面白いのでは?」と思ってもらう活動をすることが重要だと思っています。特に、高校理科で地学の履修率は1%と全くスポットライトの当たっていない分野ですが、その魅力を知っていて、かつ税金で研究している研究者たちが価値や魅力を伝えていくのは必要なことだと僕は思って、アウトリーチ活動を続けています。


研究者としての今後の活躍に期待!

―先日、ちょうど博士号を取得され、これから、いち研究者として長い研究生活が始まりますね。最後に今後の目標や野望を聞いてみたいです。まずはアウトリーチ活動についてはいかがでしょうか?

 僕の場合は、アウトリーチが本当に楽しいから趣味で続けています。正直なところ、研究はとても忙しく、また論文を書き続けて業績を詰みあげなければ日本でも世界でも生き残れません。僕のような業績の浅い、若い研究者にとってアウトリーチ活動は理想論ではなかなか続かない気もしています。 でもやるからにはやっぱりマントルファンを増やしたいなという気持ちはありますね。どのような形であれ、圧力やマントルに一瞬でも興味を持ってくれる人を、とにかく1万人まで増やしたいです。日本人口は1億人ぐらいなので、まずは1万分の1を目指そうかなと思っています。

―本業である研究についてはいかがでしょう?

 インパクトファクター(論文が掲載される雑誌ごとに算出された、社会的影響力の指標のひとつ)が全てではないとはいうものの、人生で1度はNatureScienceといった有名な学術雑誌に論文を掲載してみたいという目標もあります。自分のした仕事が論文という形で、またどれくらい役に立っているかが、他の研究者に引用された数という形で目に見えるのは研究の良いところだと思います

 僕はまだ研究者の中では卵of卵です。「この問題をこんな手法で研究したら解決できるだろう」と考えて、実際に手を動かして実験し、論文を書き上げることは、これまでもやってきました。しかし、研究費を獲得して、自分で研究室を立ち上げて運営するというところはまだやったことがありません。自分で会社を立ち上げる感じですよね。右も左も分からないので、不安は尽きないですが、戦っていこうかなと思っているので、応援をよろしくお願いします!

―今後の奥田さんのご活躍に期待しています! 「世の中の状況が落ち着いたら、Exedraで講演やワークショップをやってほしい!」というコメントもたくさん寄せられました。ぜひ、また遊びにいらしてください!


奥田さんをきっかけにマントルを好きになった方がたくさんいるのは、彼の人柄があってこそだと感じました。今後、どんな研究が進んでいくのか、楽しみですね! 次回の「研究者とトークしよう!」では恐竜博士との対談の様子をご紹介します。お楽しみに!

【番外編】質問コーナー

対談中には視聴者の方々から多数の質問が寄せられました。その他のQ&Aはぜひ配信のアーカイブをご覧ください!

Q. 水はどのような形でマントルに存在するのでしょうか?

A. すごい学術的な質問ですね(笑)。欠陥と呼ばれる、マントルの石の構造の割れ目に水があったりします。また、水があると石が「腐る」こともあります。腐る、とはここでは化学組成が変わり水を持つという意味です。結晶の中にちゃんと水をとりこんだ含水鉱物というものになります。つまり、マントルの中で水は、高温高圧でも安定な含水鉱物という形と、欠陥の中に水があるという形で存在します。ちなみに、緑色のマントルの石はほとんど水を含まないんですが、それにちょっと圧力をかけた青いマントルの石は、ちょっとしたすき間である欠陥にとんでもない量の水を蓄えることができるそうです。今一番話題となっている学説は、海の水を丸ごとマントルの青い石の中に入れると考えた時に、実はそのマントルの青い石には、海水の3~5倍ぐらいの量の水を蓄えている可能性があるというものです。そんなにじゃぶじゃぶなの!?って驚きですよね。

Q. 地球の内部で何億年間も、マントルを熱々に維持している熱源はなんですか?

A. すごい!これも学術的な質問ですね(笑)まさについ先日、博士論文を提出しました。その発表審査で、とある先生にされたのと同じ質問ですね(笑)。
 僕の博士論文の研究の1つとして「地球がどのように冷えているか」を研究していました。実は地球は今も刻々と冷えています。昔、隕石が地球の重力により集まってきて、ボコボコと衝突して、とんでもなく高温になりました。地球のど真ん中のコアが今も6000℃なのは、マントルが断熱材みたいな役割をして、なかなか冷えていないからだと考えられます。地球の内部から供給され続けている熱もありますが、大部分は、地球ができた時の熱エネルギーが今も地球内部に残っていて、それが宇宙空間に徐々に徐々に垂れ流されているということですね。地球の冷え方は、今まさに研究がなされているホットな話題です。