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研究者とトークしよう! 第3回 微生物生態学者と対談【後編】

2021年09月11日

 研究者と手作り科学館 ExedraのスタッフがSNSのライブ配信を通じて対談する「研究者とトークしよう!」。おうちから気軽に、研究の世界や研究者の人となりに触れてほしいと思い、スタートした企画です。ここでは、対談の内容を文章でお届けしていきます。

  対談第3回目のゲストは、微生物生態学・海洋微生物学を専門とする中島悠さん。前編に続き研究のお話を伺った他、後編では今後の目標や研究分野に対する想いもお話しいただきました。配信アーカイブのご視聴はこちら

中島 悠さん

1989年4月京都生まれ、滋賀県育ち。漠然と微生物学・生命科学をやりたいと思い、九州大学農学部に進学。微生物学の中でも海洋微生物学に興味を持ち、卒業研究では様々な地域で採られた有害赤潮藻類のタンパク質の比較解析を行った。修士からは、より基礎研究かつ、細菌や古細菌の研究ができる環境である東京大学の大気海洋研究所に進学し、微生物型ロドプシンの研究に出会う。その後博士号を取得し、産業技術総合研究所では未知微生物の探索や環境サンプルも対象としたロドプシンの遺伝子解析を行った。2021年春から現職。趣味は水泳、バドミントン、読書や映画、紙幣貨幣コレクション(特にインフレ紙幣)。高校教員免許理科専修を保有。
Twitter ID: @nkjmu/個人Webページはこちら


”ロドプシン”に注目!

―現在、中島さんは“ロドプシン”を研究対象の1つにされていると伺ったのですが、ロドプシンってなんですか?

 様々な説明の仕方が可能ですが、ざっくりいうと、光を受けて何か機能する遺伝子(タンパク質)のひとつです。そういったものをまとめると、「光受容体」という言い方をします。動物の目にも、実はロドプシンがあります。センサーのように、眼に入った光を受けてタンパク質中の機能が発揮されます。

ロドプシンの機能を説明した図(中島さん提供画像)

 動物の目の中にあるのと同じ物ではありませんが、微生物中にもロドプシンがあります。光が当たると細胞膜の内側と外側のイオンを動かすことができるんです。例えば水素イオン(H+)やナトリウムイオン(Na)を外に運びだしたり、塩素イオン(Cl)を内側に取り込んだり…。光を受けて、細胞の外と中の物質のやり取りをする下準備として、イオン濃度を変えられるのが微生物中のロドプシンの機能です。

―ロドプシン、初めて聞きました。

 微生物が持つものは半世紀ほど前に初めて発見されました。それまでは、「光が当たってエネルギーを生み出す」=「光合成」と考えられていました。ロドプシンの機能は光合成に似て非なる、光を受けてイオンを動かしエネルギーを生み出せる非常にシンプルなシステムなんですね。本当にわずかではありますが、呼吸や光合成とは異なるシステムでエネルギーを得られることができるというのが興味深いところです。

 遺伝子解析技術の発達に伴い、幅広い海洋環境の多様な微生物がロドプシンを持っていることが徐々に分かってきて、どんどん研究が盛り上がってきています。

―中島さんはロドプシンの何を研究されているんでしょうか?

 ロドプシンの多様性や、それぞれの微生物が持つロドプシンの種類、それを用いた生存戦略を研究しています。もっとも使いやすいのは水素イオンですが、中には他のイオンも動かしているロドプシンも見つかっています。さらに、複数のイオンを動かすものもあり、その組み合わせも複数通りあるようです。ただ、なぜ水素イオン以外のイオンを動かす必要があるのか、複数のイオンを動かす能力を持っているのかはまったくわかっていません

ロドプシンによって動されるイオンは様々。その詳細は明らかになっていないことも多い(中島さん提供画像)

 また、深海や地下深くなど、光が全く当たらない場所にいる微生物が持つロドプシンがあることも明らかになっています。微生物の体の構造は、非常に簡略化されており、無駄なものをあまり持っていないだろうというのが基本的な考え方です。それにもかかわらず、一生涯で一回も光が当たらないかもしれない環境に生息しているのに、光を使って機能する遺伝子を持っているなんて不思議ですよね。 多様な微生物が自身の生存戦略のために持っているロドプシンは、生物という複雑なシステムに対してよりジェネラルな視点で考える上では魅力的な対象だと思っています。

微生物の生態のおもしろさを、より多くの人に

―ここまでのお話の中でも、中島さんの研究に対する熱意を感じましたが、改めて、ご自身が思う分野の魅力は何だと思いますか?

 僕が扱っているのは、大腸菌や納豆菌のように有名な細菌ではなく、非モデル生物(普遍的な生命現象の研究に用いられるモデル生物に対し、そうでないもの)というものです。フィールドワークをしながら非モデル生物を扱っているからこそ、いろんなサンプリングの機会を得ることができるのは、微生物の研究の中でも、我々の分野ならではではないかなと思います。

 また、地球上には膨大な数の微生物が生息していますが、名前のついた微生物はごくわずかです。様々な酵素や薬の開発など、微生物機能の利用はそのごくわずかな微生物の機能を用いておこなわれています。未知の微生物やその遺伝子、代謝機能を調べることはより新規の資源を得ることにもつながると考えられますし、地球生命・地球環境がどんなものであるのかという「像」を明らかにすることができます

―微生物研究の世界は海のように奥が深く、とても面白かったです。

 学校でも基本的に習わない部分なので、「細菌と微生物とプランクトンがわからない」という人は、やはり世間一般的には多くて。いろんな切り口から、微生物生態学の世界を知っていただけると嬉しいですね。

―中島さんは学生時代から積極的にアウトリーチ活動もされていましたが、忙しい研究と並行して活動を続けるのは、そういった思いからなのでしょうか?

 やはり「微生物って面白いんだよ!」と少しでも多くの人に感じて欲しいという気持ちは大きいです。昨今のコロナウイルスにも関連するかもしれませんが、細菌とかウイルスと聞くと、どうしても「病原体」のようなイメージがあるでしょうし、人に役立つというイメージでは「発酵」という現象も知られています。ある意味では非常に身近な存在ながら、漠然としたイメージでしか微生物が知られていないのでは?と思うことが多々あります。だから、「生態」という全く異なる分野があり、ワクワクするような微生物がいて、それがめぐりめぐって人類に何かしらの貢献をしているかもしれないということが少しでも広がれば、基礎研究している身として嬉しいなと思い、活動しています。

―では最後に、今後の研究生活における野望や目標を教えてください!

 まずはロドプシンの研究者の中で自分の確固たる位置というのを確立したいですね。「微生物のロドプシンのこれについてはこの人だよね」と認識してもらえるようになりたいです。そして、自分の研究分野や成果が教科書に載るなり、あるいは誰か学会の仲いい人たちと協力して本を書いたりしたいですね。ロドプシンなんて、高校の教科書にも大学の教科書に書いていない場合が多いので…。

 アウトリーチ活動のひとつとして、Twitter と個人ホームページで逐一発信はしていますが、やはり手の届く範囲は限られています。僕自身もそうだったように、本の影響力はすごく大きいと思います。なにかしら一般向けの書籍や雑誌、あるいは教科書や資料集のコラムでもいいので、そういうものにも携われると、もっといろんな人に微生物の面白さが伝わるんじゃないかなと思っています。自分の発見が載るように成果を出していきたいですね。

―ありがとうございました!今後のご活躍も楽しみにしております!


「海は手に届く距離にあるけれど、まだまだ分からないことがたくさんあるところにやりがいを感じる」と話してくれた中島さん。中島さんの名前を教科書で見つける日が今から楽しみですね!

【番外編】質問コーナー

対談中には視聴者の方々から多数の質問が寄せられました。その中からいくつかを紹介します。書ききれなかった他のQ&Aはぜひ配信のアーカイブをご覧ください!

Q. 後生細菌と細菌や古細菌との違いはなんですか?

A.
 後生細菌は古細菌の呼び方のひとつです。最近は後生細菌という言葉は基本的に使わない気がします。「古細菌」「細菌」と漢字では書きますが、僕自身はあんまりこの表現が好きではなくて…。あまり使わない人もいますね。
 塩湖や熱水噴出孔といったすごくしょっぱいところやすごく熱いところ、つまり原始的な地球に似た環境に生息していて、すべての生命の祖先である細菌に似ているが細菌ではない生き物ということで、古細菌と名付けられました。ただ、近年の遺伝子解析の結果から、細菌と古細菌と、われわれ真核生物を比べると、古細菌と真核生物が近い存在で、細菌がちょっと離れていることが分かりました。つまり、進化的にはあまり古くないということです。古細菌はアーキア、細菌は真正細菌(バクテリア)と区別する表現がありますが、あんまり使われないので…後生細菌というのも、もう基本的には使われないような気がしますね。

Q. 学生時代から積極的にアウトリーチ活動もおこなわれていますが、アウトリーチ活動の中で、印象に残っている出来事があれば教えてください。

A.
 学生時代、大学院生出張授業プロジェクト(BAP:大学院生が自分の母校に出かけ、高校生に研究の魅力を伝える”出張授業”を中心に活動している学生団体)の副代表を務めていました。その時にBAPが東大の総長賞をいただき、授賞式に参加しことと、BAPの活動とBAPcafeというサイエンスカフェの活動をそれぞれサイエンスコミュニケーションの和文誌に報告した(論文が掲載された)ことです。

Q. 今までの研究の中で印象に残っている出来事はありますか?

A. 
 ひとつは間違いなく博士号取得、学位授与式です。博士号を取って、黄門様の印籠じゃないですけど、研究してますよって言うと、いろんな所で立ち入りとかサンプリングの許可を頂けます。「持っててよかった博士号」みたいな(笑)

研究者とトークしよう! 第3回 微生物生態学者と対談【前編】

2021年09月11日

 研究者と手作り科学館 ExedraのスタッフがSNSのライブ配信を通じて対談する「研究者とトークしよう!」。おうちから気軽に、研究の世界や研究者の人となりに触れてほしいと思い、スタートした企画です。ここでは、対談の内容を文章でお届けしていきます。

 対談第3回目のゲストは、微生物生態学・海洋微生物学を専門とする中島悠さん。前半は微生物(特に細菌・古細菌)の研究の魅力をたっぷりとお伝えいただきました!配信アーカイブのご視聴はこちら

中島 悠さん

1989年4月京都生まれ、滋賀県育ち。漠然と微生物学・生命科学をやりたいと思い、九州大学農学部に進学。微生物学の中でも海洋微生物学に興味を持ち、卒業研究では様々な地域で採られた有害赤潮藻類のタンパク質の比較解析を行った。修士からは、より基礎研究かつ、細菌や古細菌の研究ができる環境である東京大学の大気海洋研究所に進学し、微生物型ロドプシンの研究に出会う。その後博士号を取得し、産業技術総合研究所では未知微生物の探索や環境サンプルも対象としたロドプシンの遺伝子解析を行った。2021年春から現職。趣味は水泳、バドミントン、読書や映画、紙幣貨幣コレクション(特にインフレ紙幣)。高校教員免許理科専修を保有。
Twitter ID: @nkjmu/個人Webページはこちら


微生物の生き様を調べる

―まずは自己紹介をお願いします!

 現在、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の超先鋭研究開発部門で、Young Research Fellowというポジションで研究しています。専門は微生物生態学、海洋微生物学と呼ばれる微生物を中心とした学問分野です。

ー微生物の「生態」とは、具体的にどういうものですか?

 生態系の「生態」ですね。生態系の中にいる多様な微生物が「なぜその環境にいるのか」、「どうやってその環境に適応しているのか」、「競合している種がそれぞれにどんな生存戦略を持っていて、環境中で上手く共存しているのか」などの疑問に挑戦していく分野です。個々の微生物の生き様を調べています

―「微生物の生き様」を調べる、かっこいいですね!そもそも「微生物」とは何者なのでしょうか?

 もっともよく使われる定義は「我々の目に見えないほど小さい生物」あるいは「見えたとしても判別できないくらい小さい生物」です。つまり、単純に体の大きさだけによる定義なんです。異なる2点を別々の点と識別できる距離を分解能と言います。人間の目の分解能は0.1~0.2 mmと言われていますので、それより小さい生物は全て微生物とくくることができます。

―ひとくちに「微生物』と言っても、かなり多様な生き物が含まれそうですね。

 例えばミジンコはいわゆる動物で、大きな分類では節足動物なのでエビやカニの仲間になります。一方、例えばボルボックスは植物で、緑藻と同じグループです。

 真核生物と原核生物という、細胞の中の核の有無で判断する分類があります。動物も植物もカビもきのこも全部、真核生物です。真核生物の一部に、ボルボックスやミドリムシのような目に見えないくらい小さい生物もいます。

 今、僕が使っているような細菌は原核生物で、全く別のグループとなります。同じような仲間で古細菌と呼ばれるグループがあります。細菌も古細菌も目に見えないくらい小さいので微生物と呼びます。

ー微生物の中でも細菌や古細菌などの原核生物を中島さんは研究されているんですよね。地球上にものすごい数が生息しているんだとか…?

 どんぶり勘定なのでオーダーでしかないのですが、地球の海洋全体で10の29乗細胞ぐらいの個体数が生息していると言われています。地殻内や土壌の中も含めた地球全体となると、もう一桁多くなって10の30乗細胞ぐらいと言われたりもしますね。

―あまりにも数が大きすぎてピンとこないです(笑)

 観測可能な恒星の数が10の22乗~23乗個と言われています。つまり、星の数の10の7乗倍(1000万倍)もの細菌・古細菌がこの地球上にはいるだろうと考えられています。

海洋は微生物研究のフロンティア

―あらゆる環境に微生物がいる中で、なぜ海洋に着目されているのでしょうか?

 地球の表面の70%が海であること、地球上に存在する「水」の99%以上が海水であること、そして、表層(深海 0 m)から深海にかけて非常にダイナミックな環境の変化があることが挙げられます。また、非常に多くの微生物が生息していることも理由のひとつですす。にもかかわらず、海は到達する手段が限られているため、土壌はじめ他の環境に比べると、なかなか研究が進んでいないんです。

 微生物の研究では、微生物を採取してきて実験室で増やしその性質を調べる「培養」という作業を行います。研究を進める上では、培地(微生物を成長させるために人工的に作られた環境)の中で微生物が増やせることが必要です。特に海水に生息する微生物は、培養できる種類が非常に低いんです。

 つまり、99%以上の微生物は実験室で培養して増やすことができておらず、フロンティアが残っているとも言えます。「どんな微生物がどれくらい生息しているのか」など、まだまだ明らかになっていないことも多く、ロマンが詰まっているフィールドであることが海洋微生物生態学を研究する上でのモチベーションのひとつですね。

―どうして99%以上の微生物は培養できないのですか?

 いくつか仮説があります。1つは、培養に使う培地が微生物は苦手ということです。濃度がやたら均一な人工的に作られた物理的な足場は自然界には存在しませんからね。

 2つ目の仮説は、海洋微生物の培養に必要な成分が培地に足りていないのではないか、というものです。微量な成分を使って生きる種は、培地からその成分を得られていないのかもしれません。

 3つ目は、共生を必要とするかどうかです。寒天の上に海水や土壌を懸濁した試料をまいておくと、試料中の微生物が増えてコロニー(目に見える大きさにまで成長した微生物の集まり)が見られるようになります。コロニーは一種類の微生物が増えて形成されたものです。微生物一細胞ずつを取り出して培養するわけですが、もし違う種類の微生物同士が共存おり、互いに物質を補い合って生きていく必要があるならば、相方がいないから生えられないということも考えられます。

培地に形成されたコロニー(中島さん提供写真)

 他にも、単純に目に見えるほどの数にまで増えることができない非常に弱々しい種だと、増えていても目には見えないので、気づかないうちに捨ててしまっているかもしれません。

―培養させる環境づくりも難しんですね。

 そうですね。微生物の気持ちが分からないので(笑)、全く同じように培養したつもりなのにうまくいかない場合もあります。

―培養以外に、微生物の研究手法としてはどのようなものがありますか?

 ゲノム解析という、遺伝子を情報として読んで処理する技術が非常に発展してきています。それにより、実験室で培養することなく、「遺伝子の情報」からどんな微生物が“いそう”で、どんな機能を“持っていそう”なのかがわかるようになってきました

 以前は、特定の一種の遺伝子情報を調べることしかできませんでしたが、近年は環境中の遺伝子(環境DNA・メタゲノム)解析が可能となりました。例えば、海水100リットルの中にいる全種類の微生物のすべての遺伝子を調べることができるくらいにまで、分析技術が上がってきています。

―具体的に、どのように環境DNAを分析するのでしょうか?

 海水を採取してメッシュの細かいフィルターでろ過し、フィルター上に集めた大量の細胞の遺伝子を抽出して調べます。それら遺伝子をコンピューター上で全部並べて復元し、どれがどの種の遺伝子かを解析します。サンプリング時に、できるだけフレッシュな状態の海水を採取したその場で培養と遺伝子情報の分析もおこなえます。

―どのぐらいの深さの海水を採取するんですか?

 僕が採取した中で一番深いサンプルはで深度五千数百mです。世界中の研究者が採っているサンプルの中には、深度1万mクラスのものがあります。深くなるにつれ1Lあたりの微生物の数はだんだん減っていきますが、それでも10の3乗~4乗程度の個体数密度はどの深海でも存在します。地球の海程度の深さであれば、圧力で生命が途絶えてしまうような海域はないですね。

サンプリングで使われる道具(中島さん提供写真)

―海底に近い深いところほど、圧力条件など生き物が生きづらい環境になると思っていたのですが、微生物はいるんですね

 圧力がある程度かかる環境でないと生きられない「絶対高圧性」の生き物もいるんですよね。絶対高圧性の微生物は、我々が生きている一気圧ほどの環境では低圧すぎて増えられないんです。地球の海の深さ程度の圧力であれば、生命の限界というのにはまだまだ余裕がありますね。

―微生物はたくましいですね!

  もともと、僕が微生物に興味をもったきっかけは、100℃の熱水やpHが1くらいの酸性、逆に超アルカリの環境でも生きられる、“なんか変な能力を持った生き物が地球上に生息している”ことを本で読んで知ったことでした。「極限環境微生物」という、極端な圧力や熱さ(熱水)、pH、塩分、放射線などの条件でも耐えうる特殊な能力をもった微生物たちのことです。この出会いが学部選びの参考になり、今の研究に繋がっています。小学生の時に琵琶湖のプランクトン観察をしたのがきっかけで好きになった微生物に、ここまでのめり込むようになるには十分な体験でした。

新種は見つかりすぎて困っちゃう…!?

―先ほどは、海洋にいる微生物の数を伺いましたが、種類でいうと何種類くらいの微生物がいるのでしょうか?

 非常に難しい質問ですね(笑)まず、学名が付いている地球上の生物が200万種ぐらいです。そのうち130~150万種がキリンやゾウ、ヒトなどの動物です。

 それに対し、現在、学名がついている細菌や古細菌も含めた微生物はだいたい1万5000種ぐらいと非常に少ないです。 これには、培養して増やせることを複数の研究者が確認した微生物しか学名をつけることが正式に認められていなかった歴史的経緯が関係しています。「99%以上が培養できない」ため、学名がつくものは非常に少ないんです。ただ、遺伝子解析のみで存在しているだろうと考えられているものはもっと多いです。地球上には数百万種とか数千万種という規模で存在しているだろうと試算されています。

―その名もなき細菌や古細菌にも、名前が付く日がくるんでしょうか?

 そのあたりは、微生物生態学者の間でも議論されているところです。遺伝子のデータベースを見ると、“培養されてないけれどもとりあえず名前付けました”というデータは既にいっぱいあるんですよ。

 生き物の分類には大きな区分から順に「界・門・綱・目・科・属・種」とグループ分けがあります。現時点で1万5000種が知られている細菌は、今のところ35個の門に分類されています。しかし、遺伝子情報のみが知られている細菌も加えると200門程度はあるだろうともいわれています。非常に多様な「名もなき奴ら」が海水や土の中にいるということですね。

―中島さんも新種を見つけたことはあるんですか?

 はい。正確に言うと、論文を出して認められたわけではないので、正式な新種ではないんですけれども、今まで誰も見つけていなくて、系統関係的に近縁な種が知られていない新種候補はいっぱい見つけています!新種がめちゃくちゃ採れるんですよ(笑)。

―新種が簡単に見つかるなんて、細菌・古細菌以外の生物を研究している人からすると夢のような話ですね(笑)

 そうですね(笑)。新種が取れすぎるというのは、研究しフィールドワークも含めてやっていて面白いことのひとつです。研究を始めるまでは、まさか自分も新種に手が触れられることがあるなんて、思ってもみませんでした。この分野の魅力ひとつですね。

―新種が見つかると自分で名前をつけることができるんですか?

 それが、新種か否かを明らかにするための実験や論文の執筆、その査読(審査)のプロセスは非常に仕事量があるんです。多くの場合、「新種発見」くらいでは頻繁にありすぎて、それを報告するのは労力的に釣り合わないんです。

 学名って、苗字と名前のような感じで、最初に属名、そしてその後ろに種小名がつきます。例えば、苗字と名前、つまり属名と種小名の両方が新たに付けられるくらいの発見はインパクトがあるので、論文にしてもコスパがいいですね(笑)。

―ちなみに、発見した微生物をどのように役立てることができるですか?

 例えば、2015年にノーベル生理学医学賞を受賞された大村智先生は、ゴルフ場の土壌から分離した微生物から河川盲目症の治療薬として抗寄生虫薬「イベルメクチン」を開発しました。まさに、ゴルフ場の土から今まで採られていなかった微生物発見し薬の元となる物質を見つけたわけです。 一方で、僕が取り組んでいるのは、その先の何に役立てるかというのではなく、そもそもこの地球上には何がいるのか、少なくとも遺伝情報として環境中に存在は確かめられている未知の微生物が何をしているのかを調べることです。僕自身が発見した微生物が何に役立つのかは、応用や開発に携わる人たちに任せることにして…もうちょっと、あと10年か50年か100年先の未来のお楽しみですね。


細菌や古細菌の知られざる魅力に、終始驚きっぱなしでした。後編もお楽しみに!

【番外編】質問コーナー

 対談中には視聴者の方々から多数の質問が寄せられました。その中からいくつかを紹介します。書ききれなかった他のQ&Aはぜひ配信のアーカイブをご覧ください!

Q. 人間はとても生きられない熱水環境(熱水噴出孔)でも、微生物は生きていますよね。微生物たちは何℃くらいの温度まで耐えられるものなのでしょうか?

A. 
 世界最高記録が122℃ですね。ただ、その温度が一番良いかというと、必ずしもそうとは限りません。例えば、我々も45℃の砂漠に放り出されても一応生きていけるけれども、本当は25℃くらいが生きやすいという適温があるように、122℃でも生きられるその微生物もおそらく活性温度が山なりになるので、100℃くらいがもっとも心地よい環境なんじゃないかと思います。
 熱水噴出孔は深海にあって、高い圧力がかかるので、122℃でも水が液体のままでいられるような環境です。そんな環境でも生きている微生物が確認されています。

Q. プランクトンは微生物の1種なのでしょうか?どのグループに該当しますか?

A. 
 プランクトンは日本語では「浮遊生物」と呼ばれるものです。つまり、目に見えるかどうかではなく、基本的には水圏環境に生息していて、遊泳能力(泳ぐ能力)があるかないかで判断されます。非常に微弱に泳ぐことができても、秒速1 m~2 m程度の水流より速く泳げず流されてしまう生き物は浮遊生物と呼ばれます。クラゲも目にははっきり見える大きな生き物ですが、ただ漂っているだけなので遊泳能力という観点からプランクトンといえます。数年前、日本海で大繁殖して有名になったエチゼンクラゲは大きさが2 mぐらいある巨大なクラゲですが、あれもメガプランクトンと言われていますね。

研究者とトークしよう! 第1回 地球物理学者と対談【後編】

2021年04月25日

 研究者と手作り科学館 ExedraのスタッフがSNSのライブ配信機能を用いて対談する「研究者とトークしよう!」。お家から気軽に、研究の世界や研究者の人となりに触れてほしいと思い、新たにスタートした企画です。対談の内容を、アーカイブ動画とは別に、ここでは文章でお届けしていきます。

 第1回のゲストは、マントルを研究する地球物理学者の奥田善之さん。当日の魅力あふれるお話を、前・後編に分けてたっぷりとご紹介します!前編では、マントル研究の魅力や実験の裏側についてお話いただいた内容をお届けしました。後編では、研究以外のご活動や、マントルの研究や理学分野に対する思いにもフォーカスしていきます。 配信アーカイブのご視聴はこちら

奥田 善之さん
博士(理学)。地球物理学の分野でマントルを研究。2021年3月に東京工業大理学院地球惑星科学コース博士後期課程を修了、4月より東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻 特別研究員。趣味はアウトリーチ活動、お寺巡り。Webページはこちら


人類の前進につながる研究を

―「奥田さんの研究は何学部でしているんですか?」という質問もきています。

 理学部の地球惑星科学科です。理系の学部を超ざっくり分けると、理学部と工学部があります。誤解を恐れずに言えば、工学部は人の生活を豊かに便利にする、人のためになるような研究をしています。理学はもうちょっと根源的で、人類を一歩先に進めるような、自然科学の研究が行われていることが多いです。理学部の学科のひとつである地球惑星科学は、途上国の貧しい子どもたちを豊かにできるような学問ではないですが、一方で、広い宇宙の数ある銀河の中で、銀河系の中にある太陽系の地球という小さな天体に住む我々人類を大きく一歩動かすような可能性があります

―いまの説明、めちゃくちゃカッコイイですね。理学や地球惑星科学の分野にいると、「その研究は何の役にたつの?」とよく聞かれますよね(笑)

 聞かれますよね、理学の人だと必ず聞かれるんじゃないですかね(笑)。学術的な価値と人間の生活を豊かにするものって必ずしも一致しませんからね。宗教に似ていると思うんですが、理学分野の研究が重要かどうかって人の価値観なんですよね。何を大事に思うかは人の価値観によると思うので、無理やり頑張って説得しようとするのは難しいですよね。

 例えば宇宙を開拓したり、マントルを調べたりして何になるんだと言われた時に、私は「そうですよね(笑)」と相手のご意見や考えを一旦受け止めます。そして、その人をどうやってマントルファンにするかを考えて、「一旦、僕の話を聞いてみたらどうですか?」という姿勢で接します。話を聞いていただいてもつまらなかったら、僕の実力不足かなと思います。

 ノーベル賞受賞者の方々も、毎回メディアの方から同じような質問をされるんですよね。宇宙ニュートリノの小柴先生が「何の役にも立ちません」と返答されていたのを見て、僕は間違っていなかったんだと勇気づけられました(笑)。人類の前進のためにやっていればいいかなと思っています。それを評価してくれる人は必ずいるので、役に立つか否かであまり一喜一憂せずに、僕は僕で好きなマントルを探求しようかなと思っています。この対談を見てくれている人たちはきっと理学が好きな方々なので、そういった人たちにお話しできるのは幸せですね。

―純粋に知らないことを探究したり、科学の世界観を広げたりする気持ちは、大事にもっていたいなと感じます。

 そうですね。世界でだれもやっていないことを調べるだけでも、研究するうえで十分なやりがいだと思います。少しくさいですが、先人の研究者たちがこれまで科学を牽引し、英知を積み重ねてきたその上に僕らが立っています。先人たちの研究を引用して研究を進め、未来には若い研究者が自分の研究を引用して仕事を進めていくことになるという、大きな科学の発展の歴史に自分が貢献するというのも心地よいものです。「巨人の肩の上に立つ」というやつですね。


目指せ、マントルファン1万人!

―「奥田さんの話を聞いてマントルを好きになりました」というコメントも視聴者の方からきていますね!

 嬉しいですね!マントルを知らなかった人を、まずは1万人マントルファンにするというのが僕のとりあえずの目標なので。コメントくれた方は大事な1/10000ですね。

  義務教育や高校の授業の中で地学を学ぶ機会があまりないので、そもそも、マントルが固体であることすら意外と知られていないんですよね。僕も大学に入るまで知らなかったですし。火山からマグマが流れるイメージ図などを見て「深いところから上がってくるドロドロのものなんだ!」と誤った先入観を持ってしまうのではないでしょうか。「マントルは固体なんだよ」とという事実を広めて、日本人の勘違いを覆していこうという思いから僕のWebページには”Mantle is solid.”と記載しています。

―マントルのことについてまだまだ知られていないからこそ、研究の話を伝える活動も積極的にされているんですよね。

 はい、人前で話すのも好きなので、趣味でアウトリーチ活動(一般の方に向けて研究成果を広く伝える活動)をやっています。初めてアウトリーチしたのが川崎での体験型のブース出展です。お茶や日本酒などいろいろな液体に圧力をかけて凍らせるというものだったのですが、当日は途中から生憎の大雨でした。傘をさしてでも来てくれたお客さんと一緒に雨粒を押したのもいい思い出です。

―以前、当科学館で開催した講座「研究者に会いに行こう!」にもご登壇いただき大好評でした!

 嬉しいお言葉です!僕は講座・講義もその実はエンターテインメントだと思っています。物理学や数学を交えた真面目な地球の講義を望んでいる人は大学の授業でない限り少ないのかなと思っているので、僕の話を聞いて、「勉強になったな」というよりも「楽しかったな」という感想が出る講座を作りたいと思っています。

―ご自身はどのようなところにアウトリーチ活動の意義や楽しさを感じますか?

 研究では、まずは仮説があってそれを明らかにするためにデータを集めてきます。僕の場合は、どうやって実験をしたら仮説が明らかになるかを考えて、実験をします。集めたデータを解析して、自分が主張したいことをまとめ、研究者がたくさん集まる学会の場で発表したり、学術論文として世に出したりします。このように発表される研究成果を、みんな批判的に吟味するんですよね。これは良し悪しではなく、学術発表とはそういうものなんですが。科学の研究過程では、発表された研究の論理に穴がないか、そのデータは本当に信頼できるのかなどを批判的に見るという姿勢はとても大事なことです。「もしかしたら間違ってるんじゃね?」と常に疑う姿勢をもつことで、「この人が言っているからきっと正しい」「この人が言うことは嘘だ」という先入観なしに判断することができるからです。

 ただ、気が滅入るんですよ(笑)。自分が「どうだ!」と発表したことに対して、いろんなことを言われるので緊張するし、へこみますよね。それに対して、アウトリーチという形でマントルのことをあまり知らない方々にお話すると、やはり皆さんキラキラした顔で聞いてくれて、地球科学に対する純粋な興味を質問として投げかけてくれるので、とても新鮮なんですよね。だから、すごく楽しいです(笑)。

アウトリーチ活動に取り組む奥田さん

―アウトリーチ活動を積極的に行うようになったきっかけや、続けている理由を教えていただきたいです。

 きっかけは、マントルの研究をしていても、短期的にははっきり言ってお金を生むわけでもなく、生活が便利になるわけでもないと感じたことです。

 AIやワクチン、ドローンなど、私たちの日常生活に有益な研究分野がたくさんあります。その中で、「我々はどこからきたのか、地球の他に生命はいるのか?」など、あまりに大きすぎる問いを探究する研究の成果は、知的好奇心を満たし特定の需要はあるものの、これからもお金が付くのか正直疑問です。

 理学は、安全に暮らせてお金がある国でしか研究できないと僕は思っています。何かしら付加価値を生まなければ、この先日本に国際競争力が落ちお金がなくなってきたときに「日本が税金でやる必要はない。アメリカや中国など、お金がある国がやればいいんじゃない?」という世論が高まってしまうのではと危惧してしています。 日本において、自分の研究や理学の価値をいかに高めるかを考えたときに、マントルに興味が少しもなかった人に興味を持ってもらうことやマントルファンをいっぱい増やすこと、物理や化学,数学アレルギーの人にも「理学って面白いのでは?」と思ってもらう活動をすることが重要だと思っています。特に、高校理科で地学の履修率は1%と全くスポットライトの当たっていない分野ですが、その魅力を知っていて、かつ税金で研究している研究者たちが価値や魅力を伝えていくのは必要なことだと僕は思って、アウトリーチ活動を続けています。


研究者としての今後の活躍に期待!

―先日、ちょうど博士号を取得され、これから、いち研究者として長い研究生活が始まりますね。最後に今後の目標や野望を聞いてみたいです。まずはアウトリーチ活動についてはいかがでしょうか?

 僕の場合は、アウトリーチが本当に楽しいから趣味で続けています。正直なところ、研究はとても忙しく、また論文を書き続けて業績を詰みあげなければ日本でも世界でも生き残れません。僕のような業績の浅い、若い研究者にとってアウトリーチ活動は理想論ではなかなか続かない気もしています。 でもやるからにはやっぱりマントルファンを増やしたいなという気持ちはありますね。どのような形であれ、圧力やマントルに一瞬でも興味を持ってくれる人を、とにかく1万人まで増やしたいです。日本人口は1億人ぐらいなので、まずは1万分の1を目指そうかなと思っています。

―本業である研究についてはいかがでしょう?

 インパクトファクター(論文が掲載される雑誌ごとに算出された、社会的影響力の指標のひとつ)が全てではないとはいうものの、人生で1度はNatureScienceといった有名な学術雑誌に論文を掲載してみたいという目標もあります。自分のした仕事が論文という形で、またどれくらい役に立っているかが、他の研究者に引用された数という形で目に見えるのは研究の良いところだと思います

 僕はまだ研究者の中では卵of卵です。「この問題をこんな手法で研究したら解決できるだろう」と考えて、実際に手を動かして実験し、論文を書き上げることは、これまでもやってきました。しかし、研究費を獲得して、自分で研究室を立ち上げて運営するというところはまだやったことがありません。自分で会社を立ち上げる感じですよね。右も左も分からないので、不安は尽きないですが、戦っていこうかなと思っているので、応援をよろしくお願いします!

―今後の奥田さんのご活躍に期待しています! 「世の中の状況が落ち着いたら、Exedraで講演やワークショップをやってほしい!」というコメントもたくさん寄せられました。ぜひ、また遊びにいらしてください!


奥田さんをきっかけにマントルを好きになった方がたくさんいるのは、彼の人柄があってこそだと感じました。今後、どんな研究が進んでいくのか、楽しみですね! 次回の「研究者とトークしよう!」では恐竜博士との対談の様子をご紹介します。お楽しみに!

【番外編】質問コーナー

対談中には視聴者の方々から多数の質問が寄せられました。その他のQ&Aはぜひ配信のアーカイブをご覧ください!

Q. 水はどのような形でマントルに存在するのでしょうか?

A. すごい学術的な質問ですね(笑)。欠陥と呼ばれる、マントルの石の構造の割れ目に水があったりします。また、水があると石が「腐る」こともあります。腐る、とはここでは化学組成が変わり水を持つという意味です。結晶の中にちゃんと水をとりこんだ含水鉱物というものになります。つまり、マントルの中で水は、高温高圧でも安定な含水鉱物という形と、欠陥の中に水があるという形で存在します。ちなみに、緑色のマントルの石はほとんど水を含まないんですが、それにちょっと圧力をかけた青いマントルの石は、ちょっとしたすき間である欠陥にとんでもない量の水を蓄えることができるそうです。今一番話題となっている学説は、海の水を丸ごとマントルの青い石の中に入れると考えた時に、実はそのマントルの青い石には、海水の3~5倍ぐらいの量の水を蓄えている可能性があるというものです。そんなにじゃぶじゃぶなの!?って驚きですよね。

Q. 地球の内部で何億年間も、マントルを熱々に維持している熱源はなんですか?

A. すごい!これも学術的な質問ですね(笑)まさについ先日、博士論文を提出しました。その発表審査で、とある先生にされたのと同じ質問ですね(笑)。
 僕の博士論文の研究の1つとして「地球がどのように冷えているか」を研究していました。実は地球は今も刻々と冷えています。昔、隕石が地球の重力により集まってきて、ボコボコと衝突して、とんでもなく高温になりました。地球のど真ん中のコアが今も6000℃なのは、マントルが断熱材みたいな役割をして、なかなか冷えていないからだと考えられます。地球の内部から供給され続けている熱もありますが、大部分は、地球ができた時の熱エネルギーが今も地球内部に残っていて、それが宇宙空間に徐々に徐々に垂れ流されているということですね。地球の冷え方は、今まさに研究がなされているホットな話題です。

 

研究者とトークしよう! 第1回 地球物理学者と対談【前編】

2021年04月24日

 研究者と手作り科学館 ExedraのスタッフがSNSのライブ配信機能を用いて対談する「研究者とトークしよう!」。お家から気軽に、研究の世界や研究者の人となりに触れてほしいと思い、新たにスタートした企画です。対談の内容を、アーカイブ動画とは別に、ここでは文章でお届けしていきます。

 第1回のゲストは、マントルを研究する地球物理学者の奥田善之さん。当日の魅力あふれるお話を、前・後編に分けてたっぷりとご紹介します!まずは、マントル研究の魅力や実験の裏側についてお話しいただいた前半をお届けします。 配信アーカイブのご視聴はこちら

奥田 善之さん
博士(理学)。地球物理学の分野でマントルを研究。2021年3月に東京工業大理学院地球惑星科学コース博士後期課程を修了、4月より東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻 特別研究員。趣味はアウトリーチ活動、お寺巡り。Webページはこちら


まだまだ分からないことがいっぱい。
だから面白い!マントルの世界

―まずは、ご自身の研究について教えてください。

 僕は6年くらい、地球のマントルの研究をしています。
 地球というのは、割って断面を見てみると卵のような三層構造をしています。我々が住んでいるのは、卵の殻に当たる部分で、地殻と言います。そして白身の部分がマントル、真ん中にあって黄身の部分にあたるところをコアと言います。マントルは、地球の場合、岩石でできています。このマントルが僕の研究対象です。

 実は、人類は地面を掘り進んではいるものの、まだマントルの石を手に入れたことはないんです。なぜなら、地球内部は頭を抱えるほど圧力と温度が高くて、マントルにたどり着くことができないからなんです。だから僕たちは、実験室に疑似的なマントルを作って研究しています。ダイヤモンドアンビルセルという手のひらサイズの実験装置を使います。その中心に、天然の鉱物で最も硬いダイヤモンドを2つ設置し、マントルを構成する石を挟みます。それに超高圧をかけて潰して、レーザーを当てて加熱し温度を上げていきます。ちょっとぶっ飛んだ話ですよね(笑)

ダイヤモンドアンビルセル

―普段の生活からは想像がつかないスケールの話ですね。地球の内部はどのぐらいの圧力や温度なんでしょうか?

 例えば、地球の中心には根元から折ったスカイツリーを15個くらい手のひらで支えているような、想像を超えた圧力がかかっています。

―分かりやすいような、分からないような…(笑)

 大きすぎて形容しがたいんですよね…。温度はもう少し分かりやすくて、地球の中心で6,000℃くらい。これは太陽の表面温度と同じくらいです。まさに内部に太陽がいるような感じですね。それはドリルじゃ掘れないよね、と思いますよね(笑)

―奥田さんは、どんなきっかけがあって地球の内部の研究をすることになったんですか?

 僕は子どもの頃は、宇宙にしか興味がなかったんです。地球が大好き、マントルが大好きなんて子、なかなかいないですよね。もしいたら、ぜひ会いたいです(笑)。

 子どもの頃にアメリカに住んでいたことがあり、その時にNASAに遊びに行ったことがあって。かっこいいなぁ~って感動しました。高校を卒業するまでは、日本版NASAとも言われるJAXAに入って研究をしたいと思っていました。宇宙って、まだ全然分かっていないことがたくさんあるから楽しいじゃないですか。フロンティアと言われる、人類がまだ全然到達してないところに我々が行くんだと思うと、胸が高鳴りますよね

 でも、いざ夢をかなえるべく、大学で地球惑星科学科に入って勉強してみると、自分の足元、つまり地下にもまだまだわかっていないことが、意外にもたくさんあることが見えてきたんです。マントルまで掘れないから、全然調べられていないんですよね。空を見上げている場合ではないと感じ、まずは足元をしっかり掘り下げてみようと思って、大学4年生の頃から6年近くマントルの研究を続けています。

―「分からないから面白い」がきっかけで、自分が住んでいる地球のわかっていないことをから調べる、というストーリーはステキですね。

 学部生の頃に知ったマントルの色も、この研究を始めるきっかけになりました。マントルって岩石がドロドロに溶けた地獄のようなイメージを持つ方も多いと思うんですが、実際には固体なんです。ほとんど溶けていません。

 色もとても綺麗です。8月の誕生石であるペリドットという綺麗な緑色の鉱物がマントルの上部の多くを占めています。もっと深いところでは、化学組成(鉱物の原材料)はペリドットと一緒でも、結晶構造(原子の並び方)の違いだけで色が青色になっています。緑色になったり青色になったり、青色が茶色になったりするという色の変化は、ダイヤモンドアンビルセルを使った実験でならば肉眼で見ることもできますよ。徐々に色が変わるわけではありませんが、高圧をかけながらレーザー光線を入れるとそれに応じて色が変化するのが観察できます。入れたものの原材料は一緒なのに、原子の並びが変わるだけで色が変わるというのは魅力的に感じますね。マントルが緑色や青色をしているとは僕は思いもしなかったので、地面の下にも面白い世界が広がっているなあと興奮しました。

 僕の研究は高校生の頃に勉強した電磁気学、光学、熱力学の知識を丸ごと扱います。一番好きだった物理学を駆使して足元のフロンティアを探るのはとても楽しいです。

―以前、奥田さんがおっしゃっていた「この世は圧力と温度に支配されている」という言葉も興味深いなと思いました。

 日頃の生活の中で、温度は馴染み深い指標ですが圧力を目にすることや体感することはほとんどありません。冬に水が凍ることを疑問に思う人はいませんが、実は水は押すだけでも凍ります。水は温めるとやがて沸騰しますが、実は真空(低圧環境)に置いておくだけでも沸騰するんです。この世界の物質の状態は、温度だけではなく圧力にも支配されているんです。 地球の中も木星の中も、惑星内部というのは非常に圧力が高いので、その中の物質は人間の想像を遥かに超えた振る舞いをします。我々は普段地球の表面の姿しか見ることができませんが、圧力という軸を増やして、この宇宙に存在する物質の様々な姿を見る・知ることは、人類がこの世界をより深く理解する第一歩だと思っています。


ダイヤモンドを使った実験の裏側!

―研究で行われている、ダイヤモンドアンビルセルを使った実験について聞かせてください。  名前の通り、ダイヤモンドを使って実験するんですよね…!

 この、ダイヤモンドアンビルセルの真ん中にダイヤモンドがついています。キラキラしているダイヤモンドが見えるかと思います。

ダイヤモンドアンビルセルの中央部分に見えるのがダイヤモンド

 大きさは0.2~0.3カラットぐらいです。日本人が婚約指輪として贈る平均のダイヤモンドの大きさくらいですね。そのダイヤモンドを贅沢にも2個使って物質を捻り潰す、という実験を行っています。

―お話を聞いているだけでドキドキしますね(笑)

 やっている側はもっとドキドキしますよ(笑)。ダイヤモンドって高価なんですよ、実は(笑)。

―ちなみに、おいくらぐらい…?

 1個20万円ぐらいですね…。しかも、時々、実験中に割れてしまうんです。

 実は僕も割ったことがあって…。この実験をやっていると、だいたい皆一度は通る道です、ダイヤモンドを割ることは。 僕の場合、研究を始めて3年間ぐらいは割ったことがありませんでした。経験が浅い研究1年目に割ってしまう人が多いので、僕はこの実験に向いているのかも、と思っていたんですよね。でも、今も忘れぬ2018年2月9日に初めてダイヤを割ってしまいました。

―実験中に、「割れた」と分かるものなんですか?

 割れる音がするんです。「バンッ」という結構鈍い音がします。僕は初めてだったので、音を聞いても半信半疑だったんですが、周りの経験者たちは「これは割れたな」とざわついていました(笑)。 ダイヤモンドが割れると粉々になってしまうので、ダイヤモンドアンビルセルの後ろ側からダイヤモンドが見えなくなるんです。確認してみると、そこには何もありませんでした。そこで割ってしまったことを実感しました。

 もう丸1日、何も手につかないほどのショックでした。物の例えでもなく、ダイヤモンドとともに心も一緒に砕け散るんですよね。研究室の実験道具をダメにしてしまったことに対してもですが、せっかくマントルから作られた天然のダイヤモンドを僕が粉々にしてしまったと思うと、マントルやダイヤモンドに対しても申し訳なさがこみあげてきて…

 ダイヤモンドが数mm以上の大きさになるためには数千万年以上の時間がかかります。成長にかかる時間を考えるとなおさら、割ると大変地球に失礼だなって思ってしまいます。

―マントルを研究しているから、なおさらですね…。

 もう、本当にショックですよ…。 僕が所属している研究室では、ダイヤが割れると、割った本人とそのダイヤがかわいそうなのでみんなで慰労焼肉に行く文化がありました。ダイヤモンドを焼肉の煙で弔おうと(笑)。割った人に他のメンバーがご馳走してくれるんですが、ショックが大きくて全然喜べなくて。ただ、割った日がちょうど「肉の日」だったのでお肉をすこしサービスしてくれて、ちょっぴり癒されたのを覚えています。いい伝統ですよね(笑)。


意外な○○が研究を支えている!?

―そんな高圧実験で奥田さんが使っている、秘伝の技があると伺いましたが…!?

 実験するには、ダイヤモンドアンビルセルの中心にある、めちゃくちゃ細いダイヤモンドの先に、試料となる物質を手作業で置く必要があります。だいたい0.1 mmの場所にさらに小さい0.03 mmぐらいの大きさの試料を乗せないといけないんですよね。0.03 mmはだいたいスギ花粉ぐらいの大きさです。

 試料を乗せるのに、多くの人は針を使います。よく尖った針の先端に、静電気を使って花粉サイズの試料をくっつけ、顕微鏡で覗きながら慎重にダイヤモンドの先に乗せていきます。針の先は結構固いので、下手っぴだったり少し手に力が入ってしまったりしただけで、うっかり貴重な試料が割れちゃったりキズが付いてしまったりします。

 だから針の代わりに、僕の研究室ではまつ毛を使う人が結構います。僕はまつ毛派ですね。まつ毛の何がいいって、程よい弾力があり柔らかいため試料や穴を傷つけないんです。しかも、程よくしなやかで湾曲しているので、置く時に試料が見やすいんですよね。いろんな毛で試してみましたが、やっぱりまつ毛が一番便利です。実際に使ってみると分かると思います。僕の指導教官のまつげの方が試料を乗せるのにすごくいいまつ毛で。しなやかさと湾曲具合が絶妙なんです。学部4年生の時に、「まつ毛をください」と頭を下げに行ったことがあります(笑)。

―意外なものが実験を支えているんですね。奥田さんの裏話にもびっくりですが、視聴者の方から「細かいものを扱うのにまつ毛や髪の毛を使うの、あるあるだよね!」とコメントが複数寄せられていることにさらにびっくりしています(笑)

 みんな、何に使っているんだろう(笑)。ちなみに髪の毛よりまつ毛がおすすめですよ。実際に学会で「細かいものを扱うのにまつ毛がいい」という発表をされた方がいるそうですよ。つまり、まつ毛は学術的に(!?)認められた実験ツールといえるかもしれませんね。

―皆さん、ぜひまつ毛をご活用ください(笑)


「人間が生まれながらに持っている興味に真っ直ぐ向き合えるのが大きな魅力」と語ってくれた奥田さん。人間が到達しえない地球内部の世界や、実験の裏側をユーモアたっぷりにお話いただきました。後編に続きます!

【番外編】質問コーナー

対談中には視聴者の方々から多数の質問が寄せられました。その他のQ&Aはぜひ配信のアーカイブをご覧ください!

Q. 地球以外の岩石惑星にもマントルは存在するのでしょうか?

A.はい、必ず存在します。地球型惑星と呼ばれる惑星では、基本的に岩石でできたマントルがあります。一方で、木星のマントルと呼ばれている部分は、金属水素でできています。水素も押せば固まりますし、超高圧で押すと金属になるんですよ。面白いですよね。天王星と海王星のマントルは、氷やアンモニアでできています。何をマントルというかは惑星ごとに異なりますが、必ずマントルは存在します。惑星によってマントルの姿は違います

Q. 研究を続けてきて、大変だったことや苦労したことはありましたか?

A. たくさんありますが、そのうちの1つはせっかく執筆した論文を学術雑誌に掲載してほしいと投稿しても、繰り返し断られ突き返されたことです。論文は自分が長い時間を費やした研究の集大成ですが、その掲載が断られ続けるのは精神的に応えます(笑)。査読者(論文を評価する人)から頂いた修正コメントを淡々と論文に反映しては再提出することを5度繰り返し、ようやく受理された時は、思わず空を見上げ生きながらに成仏した感覚を味わいました。

科学コミュニケータ 実践養成講座 開講!! 参加者募集中

2018年06月09日

手作り科学館 Exedraは、地域における科学コミュニケーションの場として設立されました。

ご来館いただければ、店番をしている研究者らと、科学について、様々なお話をしていただくことができます。他にも、ワークショップルームを利用して、様々なイベントを開催しています。現在は、手作り科学館 Exedraを運営している柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)の大学院生らが各自の専門分野の紹介をおこなう「研究者に会いに行こう!」という小学生向けのイベントを開催したり、外部講師をお招きしてワークショップや講演会を開催したりと、科学に関わる人に出会っていただくことをコンセプトに多数のイベントを手掛けています。

柏の葉サイエンスエデュケーションラボでは、2010年6月から現在に至るまでの8年間の活動を通じて、こうした科学コミュニケーション活動に関する様々な知見やノウハウを蓄積してきました。

最近では、ありがたいことに、新たに科学コミュニケーション活動を始めたいという方や、他の団体・施設などで既に実践に取り組まれている方々から、視察や講演依頼なども多数いただくようになりました。

そこで当会の蓄積してきたノウハウを広く公開し、各地で科学にまつわる実践活動に取り組んでいらっしゃる方々に活かしていただき、同様の活動が全国でより一般化するよう、我々の持つ知見やノウハウを提供する「科学コミュニケーター養成実践講座」を開講します。

全6回の月例講座は、ノウハウ共有の前半90分と、実践に向けたワークショップを行う後半90分から構成されます。なるべく多くの回にご参加いただくことが望ましいですが、講座には1回からご参加いただけます。但し、1度でもご参加いただいた方には、必ず12月1日(土)に予定している「クリスマスサイエンスフェスティバル in 柏(仮称)」に出展者・主催者の一員として何らかの貢献をしていただきます。

前半では、当会の過去の活動を担当してきたメンバーが、資金調達から広報、企画・実践に至るまでの間に必要なこと、気を付けるべきポイントなどを、テーマごとにご紹介します。

後半では、12月1日(土)に予定しているクリスマスサイエンスフェスティバル in 柏への出展に向けた企画を立案し、準備するワークショップを行います。

    • 場 所 手作り科学館 Exedra千葉県柏市末広町 9-6 柏嶋屋荘
    • 参加費 1回300円
    • 時 間 以下の各開催日の 13:30~16:30
    • 日 時
      第一回 6月24日(日)科学コミュニケーション活動に必要なコト
      第二回 7月22日(日)対象と文脈の中に活動を位置付ける
      第三回 8月25日(土*)イベントの作り方(企画・運営)
      第四回 9月30日(日)マスを対象としたコミュニケーション
      第五回 10月28日(日)イベントの作り方(予算計画)
      第六回 11月18日(日)科学「コミュニケーション」の心得
    • 対 象 科学コミュニケーション活動に興味のある方ならどなたでも
    • 問合せ info@exedra.org
    • お申込 https://goo.gl/forms/7WbQlsxMo2QUpUtq2